猫足バスタブに愛を
とりあえずむやみに動くと後で殺されかねないからじっとしてよう。
それからどのくらいたったか、しばらくして彼が部屋から出てきた。
そして私の顔を見て驚く。
「まだそこに立ってたの!?」
……本当になんなんだろうこの人は。
「はぁ、まあ…」
だって何も言ってないじゃないか、そう言おうとしたがやめた。
まだ正体不明なのだ、こいつは。
もしそういった瞬間に銃で頭撃ち抜かれたらどうするのさ。
こんな優しそうな顔をしているが、もしかしたらそんなやつかもしれないんだ。
ああ、人間って恐ろしい。
そうだ。さっき私は身をもって経験したんじゃないか。
虎なんかよりも熊なんかよりも蛇なんかよりも恐ろしくて、ずる賢いんだ、人間という生き物は。
だってそれらの動物は殺し合うための道具なんて持ってないし、作らない。
最低限の狩りはする。
でもそれは己の牙と爪。生きるためにどうしても必要なことだ。
それが私達だとどうだろうか。
“たかが蝿一匹”。そういう考えを持つ人間だって少なくないはずだ。
でも命に大きいも小さいもない。
私たちと同じ命を持っているのに、敬おうなんてちっとも思っていない。
わざわざペットという名で動物を飼ったり、ましてや人間以外の動物は、私たちのような同じ動物同士を殺し合わせて、ショーにしたりだってしない。
なんて私たちはこんなにも残酷で、浅ましくて、そして一番悲しい動物なんだ。
でも私はそんな生物として生まれたわけであって、だからといって人間が憎いわけではない。
所詮そんなものなんだ。
全て、自己中心的に出来ている。
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