猫足バスタブに愛を




お邪魔しますと小さく呟けば、案外律儀だねと言われた。


そういう育ちだったもので。
ムカついたから、遠回しに嫌みを言ってみた。

でもそれを言ったら悲しくなった。



あんたの仲間がやったんだよ。

私を育ててくれた親を、あんたの仲間が殺したんだ。



そういう意味を込めて。





しかし彼は、まるで分かっていないのか、それとも違う意味で理解したのか知らない。


けど、悲しそうに微笑んだだけだった。




そして何を血迷ったか、彼は私の頭を一撫でしたんだ。





――…パチンッ…!


乾いた音が、しんとした部屋に響く。

いや、頬をぶっ叩いたわけではない。


頭の上に乗った汚らしい手を払いのけただけ。




何で…?なんでなんでなんでなんで…。


頭の中で同じような言葉ばかりが頭を回る。



…何なんだ、こいつは。




「さ、触んないでよ…!」




…ああ、こんな肝心なところでも声が裏返ってしまう自分が憎い。



どうせ強がったって、本当は恐いと思っているんだ、私は。


それは自分が一番よく分かってるよ。




しかし彼は少し目を見開いた後、また悲しそうに笑って「ゴメンね」と呟いただけだった。




…何?何なの?

何か言ってくれればいいのに。


本当は腹の中で笑ってるんでしょ?


そんな風に偽善者ぶらないで。


その余裕ぶった態度がムカつくんだよ。





なんて、やっぱり小心者な私には恐くて言えっこない。



それがまた悔しい。



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