猫足バスタブに愛を
案内された部屋は、マンションにもかかわらず以外と広かった。
きっと家賃、高いんだろうなぁなんて思いながら周りを見渡す。
うん、普通だ。
ただちょっと分からない。
この男が分からない。
何がしたいんだか、何のためにここに連れて来たのか、さっきの妙な行動のせいで余計に分からなくなってしまった。
それよりもどうしようか、この先。
そこそこ大きかった私の家は、当然燃えてしまっただろう。
住むところが無くなってしまった。
それどころか、私の鞄もあの場所に置いてきてしまった。
指定じゃない、革の茶色い鞄。
いや、別に鞄なんて大切でも何でもないんだが、一緒に入っていた財布の方が心配だよ。
今心配したって、どうせ灰になっているだろうが、だってここでこいつに放り出されてしまったら、すぐに野垂れ死ぬこと確実に決まっている。
なんせ私の今の全財産は、制服のポケットに入っているお釣りの185円だけ。
五円玉を持っていればご縁があるなんて誰が決めたんだ。
ちっとも効き目なんかないじゃないか、嘘つき。
「さて…」
ハッと顔を上げると、黒い彼の瞳と目が合った。
傍にある、黒いソファーに座っている。
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