憂
1 窓際 夏樹×遥香
[1] 窓際1 遥香side
夏樹との出会いはあるなんでも無い日の放課後だった。
せっかく部活もないのに担任からの呼び出しと雑用でひとり居残り。
付き合わされて時間は過ぎ
終わった頃にはすでに夕方。
4階まで上がって自分のクラスに入った瞬間に私は固まった。
私の席に…知らない男が座ってる…
知ってる人ならまだしも、
この人誰?
「あの…」
少しつついてみたけど起きるそぶりなし。
机の中に筆箱とか入れっぱなしなのに…
持って帰りたいのに…
起きない!
「えぇ〜…」
…仕方ない。今日は諦めて帰ろう。
机の右側のホックに掛けていたカバンを持って私は出口に向かおうとする。
なんて、ついてない日…
そういや今日は朝からついてなかった。
寝坊するし。朝ごはんは食べれないし。
体育なのに体操着忘れるし。
「…はるか……?」
変な男が私の席で寝てるし。挙げ句の果てには起きないし。
「遥香。」
「……?」
自分の名前を呼ばれてることに気がついて
私は反射的に後ろを振り向いた。
「あ、」
先ほどまでぐっすり眠っていた男が
起き上がって私を見てる。
…私の名前、なんで知ってるの?
「…お、おはよう。」
「おはよう。もしかして起こそうとしてくれてた?」
「…まあ。」
ものすごい笑顔。
私が覚えてないだけで知り合いなのかな?
「ツンツンしてたでしょ。」
窓に背を向けて私に微笑む。
夕日に照らされてるその顔を、そのときハッキリと見た。
…なんか、けっこう、かっこいいかも。
「起きてたの?」
「うーん、ウトウトしてた。」
飛び切りのイケメン、ではないけれど、
整った顔でシュッとしてて。
こんな人…忘れるかな?
「私の席で?」
「うん。びっくりした?」
「びっくりした…ていうか、私に何か用?」
「んー、うん。一度会ってみたくて。」
一度、会ってみたくて…?
「やっぱり、初対面だよね。」
「うん。」
「あなた、誰?」
「俺…は、夏樹。藤堂夏樹。」
「ごめん、夏樹。ちょっと筆箱とりたいの。あと英語の単語帳。入ってるでしょ?そこに。」
「…うん。」
嬉しそうに微笑んだまま私を見上げる。
なんで、笑ってるの?
「なに…?」
「いや、で、なんだっけ。単語帳と筆箱?」
「うん。」
「…これ、か。」
私の机の中を覗いて取り出す。
そして私の方に差し出した。
と思ったのに。
「え?」
私の私物を持った彼の手は私の手をすり抜けて、気がつけば筆箱たちは彼の太ももの上に移動してた。
「返してほしい?」
「…うん。」
面識のない男に意地悪されてるこの状況なんなの?
ああもう、ほんと意味わかんない。
「返してほしいならさ、」
ついてない日って本当についてないんだな。
「俺と、付き合ってよ。」
もう脳の処理が追いつかない。