ハチミツ味の君の嘘
1
君と出会ったのがいつ頃だったかなんて、しっかりとは覚えていない。


参加したライブにたまたま君がいて、
その歌い方が印象的で気になって声をかけた。




「連絡先教えてよ。」



その頃はまだ彼女と深い関係になるなんて思わなかった。

…だけど、今思えばこの時から少し惹かれていたのかもしれない。




自分の連絡帳に増えた「望月陽奈」の文字。



「昼と夜ごっちゃ混ぜだな。」



なんでそんなこと言ったのか分からない。
一種の照れ隠しだったのか、なんなのか。


「…うん。この名前あんまり好きじゃない。」

「そうなんだ。」

「うん。」

「…んー。俺は可愛いと思うけどな。」




俯いていた彼女が顔を上げる。

大きな目を見開いて、パチパチと長い睫毛が揺れる。




「何よ。」


そんな様子が可愛いと思った自分には気づかないふり。




「…あんまり、可愛いとか言われたことなかったから。」

「それは嘘でしょ?陽奈ちゃん普通に可愛いよ。」



耳が少し赤くなっていて、本当に慣れてないんだとわかった。



俺とは違う世界の子だな。




俺に寄ってくる女の子なんて肉食女子ばっかりで。


こんな純粋な女の子まだ居たんだなあ、ってレベルで久しぶりにあった。





「トモ。」



後ろから声をかけられて顔をそちらに向ける。


整った顔を少し崩して片手を上げて「ごめん。」と呟いた彼。



視線の先には俺の隣にいる彼女の姿。




「ああ、大丈夫。どうした?」

「…あのさ、」



言いにくそうに加瀬が口をもごつかせていると、次のバンドの曲が始まる。



「ちょっと外でよ。聞こえねえわ。」

「うん。…でもいいの?」

「うん。じゃあね、陽奈ちゃん。また後で。」



トンと頭に一瞬手を乗せてから、加瀬とともに会場をでる。
控え室に向かう途中の廊下でふと彼が立ち止まった。



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