ハチミツ味の君の嘘
「言いづらいんだけど俺悪くないから。」


振り返った加瀬が眉を下げたまま俺にそう言う。



「なに、どうしたのよ。」

「…………、凛が、来ない、とか…なんとか…」

「はあ?!」

「怒んないんでよ…、絵が描きたいんだって。」




ついつい頭を抱える。


なんだよ、それ。めちゃくちゃじゃねえか。








…うちのバンド、ais は四人構成。


そこでボーカルやってるのが、"凛"。




「どうすんの。」



考えるのも面倒になって加瀬に丸投げ。




「…どうすんの、って……」

「辞退?」

「ええー…俺もう言いたくないよ、でれなくなりました。とか。」

「あー、うん。それね。」




前にも何度かこういうことがあった。

ほんっとに、気分屋で呆れるんだけど。



前回こんなことがあったときはドタキャンしてしまったわけなんだけど、それがきっかけで主催者怒らせちゃって、
何度か出演させてもらってたライブから出演禁止とか言われた。

まあ、ね、タイムテーブルもズレるし。
凛の歌声が聞きたいがためにライブに来てる子も少なからずいるわけだし。




「智也、歌えば?」

「うっわあっ!!!びっくり、した!!」
「…っ!…加瀬に驚くわ!やめろ!」


どこからかヒョッコリでてきたもう一人のバンドメンバーが加瀬の耳元でそう言った。

ケラケラ笑ってるそいつの腹に加瀬がパンチをくらわせる。




「うっ。」

「ざまあ。」



腹を抱えたナオのことを今度は俺が笑う。



「ごめん。…いや、でも!いい案でしょ。」

「どこがだよ…」

「昔はそうだったじゃん!」

「もうしばらく歌ってないし。」

「関係ない!」

「あるから。」




ボーカルの声はだいたいバンドの顔になる。


ましてやうちのボーカルは歌が上手い。
誰もが認める美声。



確かに俺は凛がバンドに入ってくるまではボーカルをつとめていた。

だけど、凛が入ってきてから
俺らのこと好きだって言ってくれる人が増えたのも事実。


…そんな中で歌いたくねえんだよなあ。




「…トモ。」

「ん。」

「俺的には歌ってくれた方が助かるけど」

「えー…」

「や、嫌だったらいいよ。歌わなくていい。」

「…でもどうすんのさ。」

「どうしようね。」



ハハと困ったように優しく笑う加瀬を見て
こいつに群がる女どもの気持ちが少しはわかる。




「…はあああ、もう…」


そんな断りづらい顔すんなよ。



「…仕方ないな。」

「えっ。」

「お!!!智也歌うか!」

「うっせー、バカ。加瀬が困ってるから歌うだけだっつーの。」



もはや、聞いてるのか、聞いていないのか。




だけど安心したように加瀬が笑うから、
仕方ないかと息をはく。



「セトリ変える?」

「おー。歌詞わかんねえのあるしな。」

「じゃあちょっと、練習しよ。まだ時間あるでしょ。」




先を歩く二人の背中を追う。



陽奈ちゃんにも聞かれんのか、と思いながら。
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