ミステリアスなユージーン
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定時後。

施工現場から急いで戻ったものの定時内に間に合わず、私は息を整える間もなくオフィスのドアを開けた。

「ごめん、佐渡君!初日から残業させちゃって」

私はデスクにいた佐渡君に近づきながら申し訳ない思いで顔をしかめた。

「徳永君と葉山君、別件が入っちゃったらしいね。あれ、山中君と西野君は?」

息を切らしている私を見上げると、佐渡君は静かに答えた。

「デパ女との飲み会に行くらしいです。ですから俺が代わりに打ち合わせの大まかな内容とクライアントの要望を岩本さんにお伝えしようかと」

……海外生活が長い佐渡君が『テパジョ』という言葉をちゃんと理解しているのかどうかがちょっと気になるけど……まあいいか。

「マジ?!なんかごめんね」

「いえ別に。俺今日は用事ないんで」

「そっか」

言いながら彼に手渡された報告書に眼を通すと私は少しドキッとした。

……一時間も満たない時間で、ここまで本格的な書類を作ったのか、この男は。

「室内のサイズや間取り、あと写真はどうしましょう」

「いや……まだいいよ。この仕事は今の仕事が一つ片付かないと取りかかれないし」

「何故です?先方は早ければ早いほどいいって仰ってましたが」

何でって……。
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