ミステリアスなユージーン
……私の、事?私は佐渡君をただ見上げた。

すると彼は、小さく苦笑いを浮かべて手元の缶コーヒーに視線を落とした。

睫毛が瞳に影を落として、それが少し切なげな表情を作る。

「あなたは……大女将が狭心症を患っているのを知っているんですね」

コクンと喉が鳴った。

佐渡君は静かに続ける。

「若女将から聞きました。呉服桜寿が東京進出を果たした時の家具入れの際の話を。あなたは大女将の病気を知っていたから、」

「関係ない」

私は思わず立ち上がると、佐渡君の言葉を遮り彼を一瞥した。

「関係ない。若女将に何を聞いたのかしらないけど、大女将の病気とあの時の私の行動とは関係ない。余計な事を大女将に言わないでよね。彼女に恩を売るような事を言ったら許さないから。私、もう行くわ。安藤君が待ってる」

「菜月さん、待ってください」

待たない。待てない。

さっきの佐渡君の言葉が頭の中に蘇る。


『呉服桜寿が東京進出を果たした時の家具入れの際の話を』


……この話は終わりだ。これ以上この話を誰かとするつもりはない。

私は、私の仕事をやるまでだ。
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