ミステリアスなユージーン
こんな風に素早く切り返して質問されるとは思っていなかったので、私は少し怯んだ。

「企画担当の山中、西野、徳永、葉山が四件の仕事を同時進行してる。それを追いかける形でデザイン担当の私と仙道が作業にあたるから、これ以上掛け持ちしたら仕事が雑になっちゃう危険性が出てくる」

「……なら、俺もデザイン担当に回った方が良くないですか?」

冗談でしょ。私と仙道はチームの中でも今回一番忙しい。

何故なら、コストを出来るだけ削減するために、自分達で出来る施行は業者に依頼していないからだ。

悪いけど今は佐渡君の教育をしている時間なんかない。

「でも……新入社員はみんなそれぞれのチームで企画から学んでるし」

やはりクライアントとの打ち合わせや企画から勉強する方が順序的にいいような気がするし……。

その時、

「一つ言っておきますが俺、社会人一年生じゃないんで彼らと同じ扱いしないでもらえますか」

……へ?

「俺ならどっちから学ぼうが一週間あれば完璧にマスター出来るんで」

……。

なんだ、お前は。

……アメリカンジョークなのか?アメリカンな感じが皆無だけれども。

その真意を見極めたくてソッと佐渡君を窺うも、言い終えて唇を引き結んだ彼の端正な顔にひと欠片の笑顔もなかった。

……素かよ、引くわ。何か知らんが、凄い自信だな。

私は開いたままの口をさりげなく閉めると、小さく咳払いをしてからやんわりと彼の提案を否定しようとした。

けれど、

「多分、課長ならオッケイくれると思いますんで明日からは岩本さんに同行します」

……マジでなに、この子。
< 11 / 165 >

この作品をシェア

pagetop