ミステリアスなユージーン
「……」

そう言い終えたとき、私に手を伸ばそうとしていた佐渡君がピタリと動きを止めた。

あと少しで私の頭を撫でようとしていた彼の手が、そのギリギリで止まったのだ。

「引き渡し日までに一度、病院に行って報告しましょう」

「……うん」

佐渡君は、私に触れることなくその手を下ろした。

その顔は無表情に近く、私には何も読み取ることが出来なかった。

……どうして触れるのを止めたの?

とてもじゃないけどそんな事は訊けないし……よく考えたらそんな仲じゃないもんね、私達……。

戸締まりをし、呉服桜寿から出た私を佐渡君が振り返った。

「お疲れさまでした」

「うん。じゃあまた会社でね」

小さく手を振ると、佐渡君は少し両目を細めて私を見つめた。

綺麗な顔だな、やっぱり。

SD課の女子だけじゃなく、社内中の女子に人気だって、この間沙織がラインしてきてたっけ。

ボケッとしてたら取られちゃうよって。

その時佐渡君が、私を見つめたまま口を開いた。

「そんなに見つめてどうしたんですか?」

夕陽に染まった瞳が、本当に綺麗だった。

そんな佐渡君が身体ごと向きを変えて、こちらを食い入るように見つめた。

「何か言いたいことがあるなら……ちゃんと聞きます」
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