ミステリアスなユージーン
……確かに店舗前の道路は狭く、向かい同士でそれぞれのトラックを停車するのは不可能だ。

「そんな状況を岩本菜月さんが助けてくださったんです。うまくあちらのお店とお話をしてくださって……本当に驚きました。こちらは京都の本店から大型トラックで荷を積んでいましたから大変ハラハラして……心臓が痛いくらいでした」

若女将の話を聞いた俺は、胸に大きな衝撃を覚えた。

恐らく彼女は何かのはずみで大女将の病気を知ったのだろう。

だから余計に、彼女の心臓に負担をかけないように漆器店の当主と話をつけたのだ。

実に然り気無く、実に鮮やかに。

いや、彼女の事だ。大女将の病気がなくても出来るだけ穏便にトラブルを回避したに違いない。

けれどあちらの店にも事情があるし、漆器店が老舗の名店である事を考えると余程の事がない限りはこんな願い事を言いには行けないだろう。
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