ミステリアスなユージーン
言い終えたのが早かったか立ち上がったのが早かったのかはまるで覚えていないけど、とにかく私は佐渡君からもらった書類をガシッと掴むと悠々とした足取りでオフィスを後にした。

…………。

……ダメ。演じすぎた、エネルギー使いすぎ……!

足から力が抜けそうになるのに耐えつつエレベーターのボタンを連打し、私はそれに乗り込んだところで漸く大きく息をついた。

走ったわけでもないのに心臓がバクバクと激しく脈打って、思わず両目を閉じる。

途端に佐渡君のあの、妖艶な眼が蘇った。

男らしい頬や、通った鼻筋、それにセクシーな口元も。

「ああっ!」

一人きりのエレベーターの中で、私は耐えきれずにそう呟いた。

自分の中で、起きてはいけない事態が起こってしまったという事に強いストレスを感じたのだ。

ま……負けそうだったわ私、あの顔に。

佐渡右仁の、あの姿形に。

黒い貴石を思わせる瞳や同色の髪、そしてどこか異国を感じさせるような中高な顔立ちが、何を隠そう私の好みのど真ん中。

それからそれから……い……今だかつて、こんな身近にこんな美形な男がいたことがあるだろうか。(生身で)

いや、いなかった。思い返すまでもなく確実にいなかった。(生身は)

新庄課長もカッコいいけど、もし顔にスケール当てて測ったら、美の黄金比率により近いのは絶対に佐渡右仁だ。
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