ミステリアスなユージーン
「……どうしていつも意地悪だったの?……忘れてたけど、子供服の現場で背中踏まれた……」

「……」

想定外の反撃だったのか、佐渡君が張り付いたように私を見ている。

「私、嫌われてるって思ってたよ」

「……」

やがて佐渡君が観念したように天井を仰いだ。

それから私を抱き締めると、首元に顔を埋める。

「あなたが俺の気持ちを乱すから」

低くて艶やかな佐渡君の声が耳のすぐ近くから囁くように聞こえた。

「コロコロ変わるあなたの表情が俺を狂わせるんです。仕事に対して真剣なところやそんな中で少しだけ見えるプライベート。あなたを見ていると俺はイライラするし切なくなる。こんなに俺の気持ちを弄んでいるのにそれに気づかないあなたが恨めしくて」

……信じられなかった。

「あなたは無自覚な小悪魔です」

そ、んな……。

その切なげな佐渡君の声を聞いたとき、彼は私の観察記録を上回る程、私を見ていたのかも知れないと思った。

「好きだよ、佐渡君。凄く、凄く、」

そこまで言った時、佐渡君に唇を塞がれて、一層強く抱き締められた。

熱くて優しいキスに胸がキュッとして、私は思わず彼のシャツを掴んだ。

それにピクリと佐渡君の身体が反応する。

「あまり可愛くなりすぎないで下さい。今すぐ結婚したくなります」

「……えっ」

けっ、結婚?!

驚いた私に、唇を離した佐渡君が僅かに眉を寄せた。

「なにをそんなに驚いているんですか?さっき言ったでしょう?もうあなたを離す気なんか更々ないと。ということは近い将来、結婚するってことですよ、分かるでしょう?」

分からんわっ!

……やっぱり変……。佐渡君って、ちょっと変わってる……。

かなりのドヤ顔でこちらを見下ろした佐渡君を、私は冷や汗の出る思いで見上げるしかなかった。
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