ミステリアスなユージーン
∴☆∴☆∴☆∴

数日後。

「大女将、退院できてよかったですね」

「ん。それに今日、引き渡しも出来たしね」

電車内に差し込む夕日に眼を細めながら佐渡君を見上げた私に、彼は少し笑った。

「眩しいなら、こっちに来て俺の隣に並んだらどうです?」

「……うん」

ドアを背にして夕日を避けるように佐渡君の隣に立つと、彼は私の手をそっと掴んだ。

たちまちドキドキと私の心臓が騒ぎ出す。

……高校生じゃないんだから静かにしてほしいと思うのに、私の心臓は言うことを聞かなかった。

そんな私とは対照的に、佐渡君はチラッとこちらを見て静かに言った。

「……今から俺の家に来ませんか。一緒に部屋で夕飯なんてどうです?」

……それってもしかして……料理を作る……とか?

自分自身の名誉のために言っておくけど……料理は別に下手じゃない。

でも佐渡君ってイケメンだし、常にお洒落な物を食べているイメージがある。

まあ、社食では普通の定食食べてるけど。

けど、どしよう……私が見たことも聞いたこともないような名前の食べ物をリクエストされたら……。

思わずゴクンと息を飲む私を見て、佐渡君が眉をあげた。
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