ミステリアスなユージーン
「返事は?」

「いいけど……何か作るの?」

「俺が作りますよ。その代わりそれが美味しかったら……ご褒美ください」

「ご褒美?」

「菜月さんをください」

それって、その……。

顔がカアッと一気に熱くなって思わずぎこちなく視線をさ迷わせると、佐渡君がクスクスと笑った。

「恋人になってから、まだ一度もしてません。我慢できない」

……し、信じられない。公共の乗り物の中でこんな事を言うなんて。

しかも別に内緒話的に声を抑えているわけでもなく。

電車内は満員で、すぐ前に何人もの人が立っているのに。

……やっぱエロいし……バカかも。

「返事は?」

真正面のサラリーマンが私をガン見してるじゃん!

「ダメ」

ツン!と横を向くと佐渡君が繋いだままの手をクッと引いた。

その瞳が死ぬほど甘い。

「どうして?これ以上の我慢は次する時に歯止めが効かなくな、」

「バカじゃないの?!バカじゃないの?!」

私を殺す気か、お前はっ。

ダメだ、もうダメだ。息が苦しい。

その時電車が佐渡君の降りる駅に到着したらしく、彼はニヤニヤと笑いながら私の手を引いて開いたドアからホームへと降りた。

「そんなに顔を赤くされると……何だか興奮します」

「知らない!」

「あなたは……本当に可愛い人です」

……何を言ってもどうしていても、彼は私を優しく見つめては微笑んでいた。
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