ミステリアスなユージーン
……でもまあ……ね、私には愛しい彼がいるんだけれどね。

そう、大好きな彼が。片想いだけど。しかも二次元だけどな!!

おっと!今日は確か二巻の発売日じゃなかったっ?!

私は上着のポケットからスマホを取り出すと、素早くスケジュールを確認した。

や、やっぱり!

そして夕暮れの風を感じながら、すれ違う人々の視線を避けるように俯きニヤリと笑う。

……行かなければならない。彼と、彼を連れ帰るために。

私ははやる気持ちを抑えながら、地下鉄へと急いだ。

∴☆∴☆∴☆∴

翌日。

「で、安西課長は部下の結城君にとうとうコクられたわけだ」

「そうなのよっ!一巻ではさ、安西課長は結城君を頼れる部下としか見てなかったんだけど、離婚してからプライベートでも何かと力になってくれる結城君に素の自分を見せるようになっていってね、二巻ではやたらと女子社員に受けのいい結城君に微妙な感情を抱くのよ。その二人の台詞や眼差しがたまらないの。ああ、もうキュンキュンするわー!」

言い終えてA定食の唐揚げを口に運ぶ私に、沙織が少し呆れたように私を見つめた。

「バリバリのキャリアウーマンのアンタが、まさかのBL漫画好きとはねぇー。いやあ、人は見かけによらないもんだわね」

私は少し咳払いしてお箸を置いた。
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