ミステリアスなユージーン
「この瞬間が訪れても、俺は動じないつもりでした。でもいざそれに直面してあなたの泣き顔を見ると……不安でしかたがないんです」

そう言った佐渡君の瞳が言葉通り不安そうに揺れていて、私はそんな彼を可愛く思った。

「質問してもいいですか」

「なに?」

「最初に俺が日本支社長だと分かっていても、あなたは俺を好きになってくれましたか?」

貴石のような漆黒の瞳が食い入るように私を見ている。

私は迷わずに頷いた。

「好きになってたよ。この気持ちは止められない。でもきっと、『佐渡君』とは呼んでないけど」

だって、恐れ多くて。

するとようやく佐渡君がクスッと笑った。

「《ユージーン》でもいいですよ」

「えっ……?!」

「あなたさえそう呼びたければ、ユージーンと呼んでもらっても構いません。でも」

そこで一旦言葉を切って、佐渡君が悪戯っぽく瞳を光らせた。

「でもその代わり、スキンシップが濃密になりますけど」

そ、れは……困るかも……。

それに……いつの間に《ユージーン》がバレてたんだろう……。

もしかして、沙織……?

佐渡君は、狼狽える私を引き寄せたまま続けた。
< 162 / 165 >

この作品をシェア

pagetop