ミステリアスなユージーン
「ミステリアスでいた方が惹かれてくれるなら、色々謎を残しておきたいところですが……やっぱり少しずつ……少しずつでいいから俺を知ってください。たとえば誕生日、たとえば好きな酒。たとえば好きな映画。それからどれくらい俺があなたを好きなのかも。それでもっともっと恋に落ちてください、俺と」

そう言った佐渡君の瞳が甘く煌めいたから、私はたまらずその唇にキスをした。

「ミステリアスなユージーンも素敵だよ。でもやっぱり、あなたをいっぱい知りたい。それから落ちる。あなたと恋に、今よりもずっと。だからゆっくりゆっくりあなたを教えて」

佐渡君の切れ長の眼がみるみる丸くなり、僅かに唇が開いた。

「本当にあなたという人は……俺の心を捉えて離さない……」

「佐渡君、改めて……よろしくね」

お互いの身体を強く抱き締めて見つめ合うと、私達はどちらからともなく瞳を伏せて頬を傾けた。


∴☆∴☆∴☆∴



三ヶ月後。

「課長、おめでとうございます」

「ありがとう!」

朝のミーティング時、私達SD課の皆からの花束を、課長が笑顔で受け取った。

「新居、いつ招待してくれるんですか?!」

安積君の言葉に課長が苦笑して、

「そのうち呼んでやるよ!イイ酒持ってこいよ?!」

言い終えて皆を見回した課長が、そっと私に眼を止める。

私が微笑むと課長も照れたように笑った。

その綺麗な眼に曇りや陰りはなく、私は課長が望んで麗亜さんと結婚するのだと分かった。

良かった。本当に良かった。

自分のことのように嬉しくて、私は幸せそうな課長をいつまでも見つめていた。
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