ミステリアスなユージーン
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二時間後。

「課長、カラオケの予約も取ってますよ!行きますよっ!」

安藤君の従兄のお店で散々楽しんだ私達は、温かいもてなしと美味しいお料理に大満足して店を後にした。

そこですかさず二次会担当の安積君が課長に声をかけ、それに焦ったように課長が両手の平を彼に向けて苦笑した。

「いや、俺はいいよ。小遣いやるからお前らで行ってこい」

「えーっ、課長の歌声聞きたいのにーっ!」

安積チームの皆がニヤニヤしながら声高にこう言うと、新庄課長は彼らを甘く睨んだ。

「お前らーっ、俺の歌を聴いて笑うつもりだろうっ!」

「あれ、バレました?!あはははは!」

「バカ!忘年会の時は、声が枯れてただけで俺は音痴じゃない!」

「じゃあ今日、証明してくださいよ!」

店を出た皆が大笑いする中、私も課長を見て微笑んだ。

……課長のこういうところが好き。

仕事に対する姿勢も、そこから離れた時に見せる無邪気なところも。

広い車道に面した歩道は人通りも多く、いつまでもこうして立ち話はしていられない。

私は大きく口を開けて笑う課長の横顔を見つめたまま思った。

……身体を重ねても……課長は私のものじゃない。

なんだか、ママゴトみたいだな。

いつまで私達はこんな関係なんだろう。

一年?……半年?……分からないなあ。

その時だった。

分からないそれが、突然やってきたのだった。

「和哉さん!」

良く通る澄んだ声が、私達全員の耳に響いた。
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