ミステリアスなユージーン
……これだから沙織は好き。

趣味の観察記録ってものは本来、自己満足を形にしたもの。

私の場合それを誰かに、ちょっとだけ教えたい。

そういう観点からいうと、同期で親友の沙織は記録の進捗状況を語るにもってこいだ。

彼女も聞きたいみたいだし。

「あのね、昨日なんかね」

「うんうん」

私はビールでツマミを流し込むと、ニヤリと笑って沙織の美しい顔を真正面から見つめた。


∴☆∴☆∴☆∴


この五日前。

「おーい、みんな!入社式がさっき終わったからもうすぐルーキーズ来るぞ。顔合わせするまで部屋から出るなよ」

新庄課長の声がオフィスに響き渡り、私は内心舌打ちしながら肩にかけたバッグを再びデスクの隣のラックに戻した。

今日は朝イチで施工業者との打ち合わせが入っている。
ゴールデンウィーク前にリニューアルオープンする貴金属店と、シューズ店から子供服店に改装した店の二店舗だ。

「課長ーっ、私行っていいですよね?確かうちのチームは新人来ないはずだし」

私が数メートル離れた課長のデスクに向かって声を張り上げると、課長は私を眼に留めて唇を引き結んだ。

涼しげな眼が実にセクシーだが、黙って見つめられると迫力負けしそう。

「ダメだ」

やがて課長は一言そう言った後、フワリと笑った。
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