ミステリアスなユージーン
思い出すな、思い出すな私!あれはもう過去の出来事でこの先有り得ないのだ。
駅から自宅までの道のりが進むにつれて人の数が減り、やがて追い抜かされることもなくなる。
完全にひとりになったマンションの花壇の数歩手前で、私は肩にかけていたバッグを下ろして開いた。
その時、
「菜月」
「わっ!」
植え込みの中のライトに照らされた人物に、私は気づくのが遅れた。
花壇の角に誰かが腰を掛けていても、背の高い植木が邪魔をして見えないのだ。
「課長、どうしたんですか?びっくりするじゃないですか」
胸を撫で下ろしながらこう言った私を、課長は少し笑って見下ろした。
それからスラックスのポケットに両手を突っ込み視線を落とす。
何か言おうとして思案する時の課長の癖だ。
「今朝は……あまり話せなかったから」
私は立ち止まったまま、課長から目をそらした。
『あれが課長の口実だと分からないんですか』
『ズルズルしますよ?ここで断ち切らないと』
佐渡君に言われた言葉が胸に蘇り、私は再び課長を見上げるとニッコリと笑った。
駅から自宅までの道のりが進むにつれて人の数が減り、やがて追い抜かされることもなくなる。
完全にひとりになったマンションの花壇の数歩手前で、私は肩にかけていたバッグを下ろして開いた。
その時、
「菜月」
「わっ!」
植え込みの中のライトに照らされた人物に、私は気づくのが遅れた。
花壇の角に誰かが腰を掛けていても、背の高い植木が邪魔をして見えないのだ。
「課長、どうしたんですか?びっくりするじゃないですか」
胸を撫で下ろしながらこう言った私を、課長は少し笑って見下ろした。
それからスラックスのポケットに両手を突っ込み視線を落とす。
何か言おうとして思案する時の課長の癖だ。
「今朝は……あまり話せなかったから」
私は立ち止まったまま、課長から目をそらした。
『あれが課長の口実だと分からないんですか』
『ズルズルしますよ?ここで断ち切らないと』
佐渡君に言われた言葉が胸に蘇り、私は再び課長を見上げるとニッコリと笑った。