ミステリアスなユージーン
「ジュエリーショップ『Gracia』の件ならクリアしました。急遽増やしたショーケースの上のライティングが甘くて焦ったんですけど、業者さんが予備のライトを持参してくれてて、うわっ!」

突然私を抱き締めた課長が、クスッと笑った。

「全くお前は……『うわっ!』じゃなくて、『きゃあ』だろ」

これまでの私なら喜んで彼の背に腕を回していたんだろうな。

でもそんな私はもういない。

「課長、やめましょう。もう終わりです」

「……っ」

課長が僅かに息を飲んだのが分かった。

それと同時に私は手のひらを持ち上げ、課長の胸を押して距離を取り、一歩下がった。

「……悪かったと思ってる」

……悪かったと……本当に思っているのだろうか。

あの夜の課長は多分、麗亜さんが現れなければ私を部屋に呼んでいた。

バレるまで、私を縛るつもりでいた。

「菜月に二度と触れられなくなると思うと怖くなって言い出せなかったんだ。こんな気持ちになるなんて、計算外だった」
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