ミステリアスなユージーン
「なんですか、課長」

顔だけで振り向いた私の眼に、一瞬だけ驚いた顔をした課長が写った。

「……いや、なんでもない。送る」

「大丈夫です。寄るところがあるんで。バスルームお借りしたらそのまま帰ります」

「……分かった」

この空気。この態度。

『課長』と呼ぶのは私の予防線。彼もそれを解っているのだ。

「ほんと、俺様」 

私はバスルームへと向かいながら、そっと小さく呟いた。

∴☆∴☆∴☆∴

「いい?SD課はね、スペースデザイン課の略」

「分かってます」

私は指先でボールペンをクルクルと回す佐渡右仁をチラリと見た後、気を取り直して先を続けた。

「うちのチームは見ての通り全部で六人。企画担当が山中君、西野君、徳永君、葉山君の四人。デザインと設計が私と仙道君で、佐渡君は先に打ち合わせと企画を学んでもらうから」

「施工者はチームに入ってないんですか?」

私は軽く頷くと続けた。

「施工者は、色んな職種が必要になる場合が多くて大規模な案件はほぼ外注。小規模のディスプレイなら、私と仙道君が二人でやる」

すると仙道君がすかさず突っ込んだ。
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