キミは甘のじゃく
(ああ、もう……色々と思い出してきた)
美術の時間に書いた風景画が学内に張り出された時は“ヘタクソ”と取巻き達の前で笑われ。
オシャレに目覚めて色付きリップを塗れば“ブス”と罵られ。
祖母が進級祝いにくれた刺繍のバレッタは“似合わねーんだよ”と取り上げらた。
どんなに悔しくても、中学生の私は古賀くんに言い返す術を知らなかった。
幸いなことに高校は別々の所に進学したけれど、あのころ受けた謂れのない悪口というか暴言の数々は、男性が苦手になるには充分だった。
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「まあ!!あなた達同級生だったの?」
お母さんのわざとらしい感嘆の声に、ハハっと渇いた笑いとため息しか出てこない。
「はい。一緒のクラスだったのは3年生の一年間だけでしたけれど」
「まさかこんなところで再会するなんてこれって運命なんじゃない?」
お母さんはこれ見よがしにバシバシと私の肩を叩き、この場を盛り上げようと必死だった。
(うう、痛い……)
遠慮のない叩き方に苦悶の表情を浮かべそうになったが必死で耐えた。
お見合いが始まってからというもの、古賀くんはお母さんのご機嫌取りに励んでいて、借りてきた猫のように殊勝な姿勢を見せている。
「いい感じの人じゃない?さくらも隅に置けないわね?」
お母さんの耳打ちが更に追い打ちをかける。
(地獄だ……)
できることなら穏便に断りたかったのに、徐々に外堀が埋められていくのを感じた。