キミは甘のじゃく
「おい、さくら!!」
古賀くんが止めるのも聞かずに、停車すると同時にシートベルトを外して遊歩道に飛び出す。
「待てよ!!」
「やだっ……!!マンションには帰りたくない!!」
今、帰ったらきっとすぐに荷物をまとめて出て行けって引導を渡されてしまう。
そうしたら、今度は別の誰かが古賀くんの隣に収まるんでしょう?
私以外の誰かに甘える古賀くんなんて想像したくもない。
「さくら!!」
古賀くんが待てと叫びながら必死の形相で追いかけてくる。対する私は帰りたくないと喚き散らしながら逃走を続けた。
走り出して5分ほどが経過した頃、茶番のような鬼ごっこに決着がついた。
「お前は……!!病人のくせに!!」
とうとう私は古賀くんに捕獲された。
退院直後で体力が戻っていないこと、男女差を計算に入れてなかったのが敗因だ。
古賀くんときたら真冬だというのに顔中が汗だくになっている。
逃げるのを観念し怒鳴られるのを覚悟して、ぎゅっと目を瞑る。
しかし、いつまで経っても雷が落ちてくる気配はなかった。