キミは甘のじゃく
6.全てはキミの掌の上
その日から宣言通り古賀くんは会社近くのコーヒーショップで私がやって来るのを待つようになった。
定位置は決まって、大通りが見やすい窓際のソファ席。
雨が降ろうが風が吹こうが、飽きもせず毎日やって来ては、コーヒーショップが閉店する9時まで微動だにしない。
その執念があれば、おじいさんに後継者として認めてもらえるのではと思ったのは内緒だ。
さて。
なぜ、私が古賀くんにまつわる情報を知っているかというと……隠れて様子を見に行っているからである。
(うー……今日もいる……)
コーヒーショップの対岸にある、ファーストフード店は古賀くんの座るソファ席の様子を窺うには最適な立地にある。
バレないように、文庫本で顔の下半分を隠しつつ、目だけ彼を追う。
ファーストフード店に通い詰めること一週間……古賀くんが諦める気配は一向にない。
(いい加減、諦めてくれないかしら……)
大体、結婚の話を切り出したのだって私なら言うことを聞くだろうと高を括っているからである。
ただ大人しく俯いて誤魔化していたあの頃とは違うのだということを、どうやったらわかってもらえるのだろうか。