キミは甘のじゃく

**********

コーヒーショップの店内を見回すと、目的の人物は直ぐに見つかった。

古賀くんは今日も定位置のソファ席に座り、くつろいだ様子でコーヒーを啜っていた。

しかし、私が来ると見るやニヤリと唇の端を上げて笑った。

「なんだ、婚姻届にサインをする覚悟が出来たのか?」

からかおうとしているのか、はたまた本気なのか。

「昔の義理を果たしにきただけよ」

どちらか見抜けぬまま、向かい合うようにソファに腰掛ける。

三日三晩悩みに悩んだ末、私はもう一度だけ古賀くんと話をしてみることにした。

「どうしてそうまでして古賀電機にこだわるの?」

……そう、彼の真意を問い正したかったのだ。

古賀くんはふうっと大きく息を吐いた。

「じいさんな、手術が必要な身体なんだ」

「え?」

「手術して療養にはどうしたって長期入院が必要になる。自分がいない間、会社が心配なんだと。それなら、俺が代わりになるしかないだろう」

……古賀くんがいばらの道を歩もうとしているのは明らかだった。

< 34 / 169 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop