キミは甘のじゃく
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コーヒーショップの店内を見回すと、目的の人物は直ぐに見つかった。
古賀くんは今日も定位置のソファ席に座り、くつろいだ様子でコーヒーを啜っていた。
しかし、私が来ると見るやニヤリと唇の端を上げて笑った。
「なんだ、婚姻届にサインをする覚悟が出来たのか?」
からかおうとしているのか、はたまた本気なのか。
「昔の義理を果たしにきただけよ」
どちらか見抜けぬまま、向かい合うようにソファに腰掛ける。
三日三晩悩みに悩んだ末、私はもう一度だけ古賀くんと話をしてみることにした。
「どうしてそうまでして古賀電機にこだわるの?」
……そう、彼の真意を問い正したかったのだ。
古賀くんはふうっと大きく息を吐いた。
「じいさんな、手術が必要な身体なんだ」
「え?」
「手術して療養にはどうしたって長期入院が必要になる。自分がいない間、会社が心配なんだと。それなら、俺が代わりになるしかないだろう」
……古賀くんがいばらの道を歩もうとしているのは明らかだった。