キミは甘のじゃく
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「ほら、さっさと歩けよ」
「待ってよっ!!もう!!」
区役所まではマンションから歩いて15分ほど。
古賀くんに先導されるようにして、区役所の中を歩き必要な書類を提出する。待合いスペースにあるソファに座れば、あとは受理されるのを待つばかりだ。
私の携帯がけたたましく鳴り出したのは、順番待ちを始めてすぐのことだった。
液晶には“お母さん”と表示が出ていた。
「ちょっと電話してくるね」
「ああ」
迷惑にならないように待合いスペースを離れ、区役所の外まで出ると通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『もしもし、さくら?結婚おめでとう!!』
通話口から聞こえる声があまりにも声が大きくて、つい耳を遠ざける。
「結婚おめでとうって……まだ区役所にいる途中よ?」
本人よりはしゃいでるって、随分と浮かれてない?
『いいじゃない。とにかくおめでとうが言いたかったのよ!!』
「はいはい。ありがとう」
今朝方別れたばかりだというのにもう寂しくなったのかしら?
お母さんはそのまま5分ほど喋り倒し、最後に『たまには家に帰って来なさい』と言い残し電話を切った。