キミは甘のじゃく
「さくら……」
「な……によ、もう……!!」
意味もなく走らされた私は半ば怒りながら彼を睨みつけた。
古賀くんはジャケットのポケットからビロードの箱を取り出し蓋を開け、何も言わずに私の左手の薬指にそれを嵌めた。
「わざわざ買ったの……?」
「……当たり前だろう」
もしかしてこの日のために……?
古賀くんが用意していたのはキラキラと眩い、大小一揃いの結婚指輪だった。
サイズもそれぞれピッタリである。
誰かに指輪なんてもらったのは初めて、感動してしまう。
(綺麗……)
ダイアモンドを何粒もあしらった結婚指輪に見惚れていると、古賀くんがうっとりと呟く。
「今日から夫婦だな」
彼がお揃いの指輪を嵌め悦に浸ると、緩んだ口元を照れ臭そうに隠した。
(……何だか様子がおかしい)
普段の古賀くんならこの辺で皮肉のひとつでも出てこようものだが、今日はそれが一切ない。
段々と……その空気感が怖くなってくる。
「古賀くん、あの……」
どうしたの?と尋ねる前に今度は切羽詰ったような荒々しいキスで唇を塞がれる。