キミは甘のじゃく

(そうか……)

私達、お見合いしてすぐ結婚することになったから、互いのことをほとんど知らずにここまで来てしまったんだ。

過去の話も、未来も話も。

すべて置いてけぼりにしてきたことに今更になって気がつく。

私達の共通点は同級生ということだけ。

狭い教室の中ですれ違うようにして過ごした1年に、どれほどの価値があるというのだろう。

私は果たして古賀眞琴という人物をどれほど理解しているのだろうか。

書類上は妻だというのに私ときたら夫である彼のことは何も知らないのだ。

「古賀くんはいつ古賀電機を継ぐって決めたの?」

「10歳」

驚きの年齢に私は口をあんぐりと開けてしまった。

「随分と早いのね……」

10歳ということは私達が同じ時を過ごした中学生の頃には、既に古賀電機を継ぐと心に決めていたわけだ。

……随分とませた子供だ。

「あのじいさん、今じゃただの老人だが。昔はすごい技術者だったんだぞ。今では当たり前に普及している電気アイロンや乾燥機の国産化に成功したのはじいさんが初だからな」

「そうなの!?」

……普通のおじいさんにしか見えないのに。

輝かしい功績を隠し持っているのは、理系の人の常なの?

ちょっぴりだらしないうちのお父さんだって、昔は古賀電機の社員で古賀会長の懐刀だったていう噂だし……。

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