キミは甘のじゃく
「昔からじいさんに張り付いてその生き様を間近で見てきたんだ。俺が後を継ぎたいって言いだすのは自然の流れだろ」
古賀くんはデスクの上を占領していたメモを集めると、トントンと角をそろえて引き出しにしまった。
「まあ、言った途端に大喧嘩したけどな」
「古賀くんはおじいちゃん子なんだね」
「……別に。そんなんじゃねえよ」
照れているのか、ふいとそっぽを向かれる。
そんな態度を取っていたっておじいさんのために立派に会社を引き継ごうとしているのを私は知っている。
……正直、見直してしまった。
(古賀くんって一途なのね……)
いじめられていた中学生の時は、粗野で乱暴で嫌な人だって思っていたけれど。
それは、あくまでひとつの側面でしかない。
10歳の古賀くんがその身に大いなる野心を秘めていたのと同じように、誰しも人には簡単に見せない何かを抱えているのだ。
(……覚悟がなかったのは……甘く見ていたのは私の方なのかもしれない)
何も考えずに妻の恩恵を享受していた自分が、急に恥ずかしくなってくる。
直ぐ離婚するからって、私が何もしなくていい理由にはならない。
古賀くんは、“お前がいる”と言ってくれたから。
それならば、私だって……。