キミは甘のじゃく
「まだかしら……」
約束の時間もそろそろという頃になると、待ちくたびれたお母さんがぼやきだした。
「私達が早く着きすぎたのよ。もう来るんじゃない?」
せっかちすぎるお母さんをなだめると、仲居さんが持ってきてくれたお茶を啜る。
(釣書くらい見ておけばよかったかな……)
相手の顔ぐらい頭にいれておけば、緊張もいくらか薄れたかもしれない。
……このままずっと到着しなければいい。
なんて、淡い夢を描いたのも束の間だった。
俄かに廊下がざわめきだすと、障子がスッと左右に開いた。
「遅れて申し訳ありませんでした。途中で渋滞に巻き込まれてしまいまして……」
障子の先から現れたのは親子と思われる、老齢の女性とスーツ姿の男性だった。
相手親子が会釈すると、私とお母さんも立ち上がって一礼を返す。
「いえいえ、こちらこそ早く着きすぎてしまって……。かえって気を遣わせてしまいましたかしら」
うふふ、あははと互いの母親が世間話に興じているのを聞き流していると、突然小脇を肘で突かれた。
軽く睨まれて自分の番だと悟った私は慌てて、己の腰を折った。