キミは甘のじゃく
「もしかして俺がナンパされてるって勘違いでもしたのか?」
古賀くんは腰を抜かした私に手を貸すと、ふふんと得意げに笑った。
せっかく旅行に来たのに、言い争いをするなんて不毛だ。
彼に落ち度がないだけに……悔しい。
「私!!もう一回お風呂に行ってくるから!!先に戻ってて!!」
私はそう告げると、今しがた歩いてきた廊下を戻り出した。
(もう……なんでこんな気持ちになるのよ……)
胃の奥がもやもやと重くなって、消化不良でも起こしているのかと錯覚してしまいそうになる。
(気分転換にもう一度温泉にでも入ってこよう……)
温泉の効能でこの鬱屈した気持ちも晴らせるはずだと信じて疑っていなかった。
しかし、これが間違いのもとだった。
温泉に浸かり過ぎた私は、すっかりのぼせてしまい脱衣所で倒れているところを他の宿泊客に発見されたのだった。