ケーキとキスと幼馴染
 日本海側の小さな町から東京に出てきてから5年。
 いつまでたっても田舎くさい自分とは違い、啓介はそれなりに都会の色に染まっていた。

 同級生の何人かが、彩奈や啓介と同じように東京の大学に進学した。
 最初の頃は、先輩たちも交えてときどき集まったりしていた。

 けれど、ひとりふたりとサークルやバイトを理由に都合がつかなくなり、やがて彩奈と啓介だけで同窓会をするようになった。

 お盆や正月にはお互いに休みを調整し、一緒に田舎へ帰った。

「彩奈はぼんやりしているから、危なっかしくて見ていられない」

 そんなふうに、啓介はいつも彩奈をフォローしてくれた。
 啓介がいてくれなかったら、厳しい都会の生活から、早々にリタイヤしていたかもしれない。


 でも高校時代、啓介とまったく会話をしない時期があった。
 啓介は知らないだろうけど、そのころ彩奈は、啓介に想いを寄せている女子たちから、幼馴染だということだけで嫌がらせを受けていた。

 田舎では、ちょっとかっこよくておしゃれなら、それだけでアイドルなのだ。
 おまけに啓介は性格もよく、女子だけではなく男子からも好かれていた。
 先生たちや近所の人たちもみんな、「啓介くん、啓介くん」と彼をかわいがっていた。

 どちらかというとおっとり系の彩奈は、食べるのが大好きで、運動が苦手だった。

 年ごろの女子の常として、甘いものは脂肪に直結する。高校時代の彩奈の体重は、人生で最大級だったと思われる。

 ぽっちゃり体型でニキビだらけだったが、性格がおおらかだったので、友達には恵まれていた。
 啓介も幼馴染として彩奈を大事にしてくれていた。
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