國比呂少年怪異譚・第二夜
「ここです」

そう中年夫婦に言われた。

トキコさんとケイちゃんは、背負っていたリュックサックの中から塩を出して、ペットボトルの水を振りかけ両手にまぶした。

『何が始まるんだろう?』と思いながら、兄さんも両手に塩をまぶした方が良いのか聞いてみると。

「お前には必要ない。ただ言われた通りにしろ」

そう言われた。

トキコさんは中年夫婦に『何があっても絶対に取り乱すな』と注意をしてから、扉を開け中に入った。

兄さんも後ろに続こうとした時、中から黒い影がトキコさんに覆い被さって来た。

タカオという中学生ぐらいの少年だったが、異様に眼がギラギラしており、歯を剥き出しにして。

「ガジャガジャ、ガジャー!」

みたいな事を叫んでいた。

トキコさんの首に噛み付こうとしていたので、流石に兄さんもこりゃイカンと思い、少年を引き剥がそうと彼に近寄った。

タカオ君は兄さんの顔を見るなり震え始め、ベッドの隅っこに逃げて身を丸めた。

「体のどこでもいいから、引っ叩け!」

トキコさんにそう怒鳴られた。

なので『悪いなあ』と思いながら、丸まっている背中を引っ叩いたそうだ。

そんなに強く叩いた覚えは無かったが。

「うぎゃぁああぁぁあぁあぁああぁ!」

タカオ君は泡を吹いて倒れた。

倒れているタカオ君を介抱しようと両親が近寄る。

『そんな強く叩いてないよな』と思いながら横目でトキコさんを見ていると。

「これで御祓いは終わりました、もう大丈夫」

トキコさんは言ったそうだ。

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