國比呂少年怪異譚・第二夜
「見るな!」

隣が声を荒げる。

慌てて目をぎゅっと閉じ、更に強くお札を握り締めた。

コツ、コツ、コツ。

ガラスを叩く音が始まる。

周りに乗っている人も短く「エッ」とか「ンン」とか声を出す。

アレは見えなくても、声は聞こえなくても、音は聞こえてしまうようだ。

須磨子さんの念仏に力が入る。

やがて、声と音が途切れたと思った時、須磨子さんが声を上げた。

「うまく抜けた」

それまで黙っていた周りを囲む男性も、安堵の声を出した。

やがて車は道の広い所で止まり、父さんの車に移された。

父さんとじいちゃんが他の男性達に頭を下げている時、須磨子さんが「お札を見せてごらん」と近寄ってきた。

無意識にまだ握り締めていたお札を見ると、全体が黒っぽくなっていた。

須磨子さんは新しいお札をくれた。

「もう大丈夫だと思うけど、念の為にしばらくの間はこれを持っていなさい」

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