甘い言葉の甘い罠
市内の比較的大きなホテルでの立食形式のパーティだった。
全店舗臨時休業で、従業員総出でのパーティになっていた。
パート、アルバイトは強制ではないようで、ざっと300人もいるだろうか。
やっぱり規模が違う。
祝辞が一通り終わるとそれぞれの支店のテーブル席で会食が始まる。年始以外顔を合わせる機会の少ない社員同士の、数少ない交流の場ではあった。
「先日はどうも」
その声に、ぴくりと反応してしまった。
「ま、松嶋さん…」
「気を付けてくださいね、そうそうないでしょうけど。痴漢に合わないためにも満員電車に乗るときはオーバーオールやツナギで乗られることをお薦めしたいものですが」
またいつもの仏様のような穏やかな笑顔に戻っている。
「痴漢されたんですか??それは災難でしたね」
傍にいた工藤さんが心配そうに。
「いや、大丈夫ですよ!!私なんて触っても何の特もありませんから!!」
「そんなこと…」
「そうでしょうね」
「はい!?」
それはそれで失礼な言い様だ、と。
あの後のことは覚えていないのか。そんな空気だ。
それはそれでいいけど。