甘い言葉の甘い罠
聞いたことないような焦ったような声にビクリとした私は、留まろうとした。
「待て……いや、よ、よかったら、一緒に行ってもいいですか?」
「…登哉さん?まだお仕事が」
「たまにはお食事しながらでもいいじゃないですか」
彼女さんらしい女性の制止にも、不自然に絡んでくる。
そんなことする人なんだ。
「あの、私は帰りますので」
どうしたらいいのかわからなくなった私は、本当に帰ろうと駅に向かおうとする。
お食事だけするにしても、彼女さんまで一緒なのは。
さっきの笑顔をもう一度目の当たりにするのは、なぜか耐えられないと思った。
そこへ、タクシーが通りかかった。すっ、と手を上げると停めた竹下くん。
「乗りますよ、深雪さん」
「えっ?えっ??ええっ?!」
言うままに促され、強引に腕を掴まれ、開いたドアの奥に押し込まれてしまった。
「おい…っ」
止めようとする松嶋さんに会釈すると、タクシーはドアを閉め、人の行き交う夜の街を走り出してしまった。