甘い言葉の甘い罠


「別に浮かれてなんかっ」


もちろん失恋したなんて口が裂けても言えない。何を言われるか分かったもんじゃない。


それでも空気でいいことがあって浮かれていたことは察したらしい。
油断できない。


「分かりやすいんですよ。ヘラヘラしちゃってましたからね。あった。邪魔です。用件がないならお帰りください」


探していた商品が見つかったらしく、棚から手に取る。


「また、また来ます!!」


これ以上傷口に塩を塗られるのは堪えられない。
いやなんならスパイクでエグられる。


「お大事に」


背中越しにひらひらと手を振る。
くうう!!
嫌な奴!!


担当店舗じゃなかったら、こんな店来ないのに!!


けれど数人の女子高生やら女子大生やらが、事務所に入る松嶋さんを棚越しに見つめている。


なんなら入り際、


「これっ!!食べてくださいっ!!」


と、その中の1人の女の子が袋を手渡す。


「私も私もっ!!」


わらわら集まり、囲まれてしまった。
こんな奴の、腹黒男のどこがいいんだか。



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