甘い言葉の甘い罠


「モテモテで大変よね、松嶋くんの彼女も」


お手洗いに行っていた、取り次ぎで2年先輩の峯崎有美(ミネサキ ユミ)さんが、店内の様子を一通り見ながら、帰ってくるなり背後から声を掛けてきた。


グレーのパンツスーツに、髪は後ろでひとつに束ねている。銀縁のフレームのインテリタイプの女性だ。


堅そうに見えて、こんな話もするんだとちょっと驚いた。


「彼女さん、いるんですね、意外…」


「知らないの??隣の市の支店の時期店長候補、キャリアウーマンで有名な英枝梗子(ハナエ キョウコ)さん。5つ年上ですって。あんなイケメンだもの。必死で口説いたらしいわよ」


わからない。
どこがいいのかますます。
まあ、わかりたくもないし分かる必要ないけど。


書店回りは、新人の挨拶のときは出版社の先輩と2人ペアで行う場合のパターンと、取り次ぎ専門で、店舗としてではなく倉庫として運営している会社と同伴で回るパターンがある。



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