心ときみの物語
1話 恋ときみと友情と
今日も人々は色々な願いを抱えてここにやってくる。
その願いを手のひらで合わせて、目を瞑り心で唱える。
自分のため、誰かのため。
小さなこと、大きなこと。
欲望、願望、切望。
きっと誰もが、目に見えない存在に想いを託す。
ここは高嶺(たかね)神社。
――別名、縁結びの神社。
都心から車で20分。
森林に囲まれ、排気ガスの淀んだ濁りが届かないこの場所は、とても空気が澄んでいて一年中風が吹き抜ける。
聞こえる音といえばムクドリの鳴き声と参拝者の足音と境内に響く鈴乃緒の音。
ガンガランと叶緒(かねのお)を引いて、縁を結びたい相手の名前を心で繰り返す。
それがこの高嶺神社の〝一般客〟
今日もまた浮かない顔をして、お守りなどが売っている社務所(しゃむしょ)に女の子がひとり。
「こんにちは。なにをお探しですか?」
白と赤の衣装を着た巫女がニコリと微笑む。
「あの……〝裏絵馬〟をひとつ」
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