心ときみの物語
「よう」
サンダルで本殿を出ると、そこには雪乃の姿。
その服装はまだ制服で、どうやら家には帰っていないらしい。だいたい理由は検討がつく。
俺と別れて、親友との思い出が詰まった公園にでも行って。その日々を考えながら「大丈夫、もう決めたんだから」と自分に言い聞かせている間に夜になった、ってとこだろ。
まあ、俺の勝手な想像だけど。
「引き返すなら今だぞ」
そう言って俺はポケットに手を入れたまま雪乃に近づいた。
「大丈夫です!お願いします……っ!」
神社に響くでかい声。
雪乃が目を瞑り両手を胸の前で組んだ。その肩は小刻みに震えていて、なにが覚悟だよ、なにが大丈夫だよ、と思いながら俺はポケットから手を出した。
こいつがどんなに後悔しようと、失ったものの大きさを後から知ろうが俺には関係ない。
俺はただ願われたから、叶えてやるだけ。
責任なんて、自分の背中に背負うものなんだよ。
俺は右手の人差し指を雪乃の顔にさした。
そして……。
「痛っ」
そのまま思いきりおでこにデコピンを食らわせてやった。