心ときみの物語
「……えにしっ……縁」
心春が何度も俺の名前を呼んで。まるで溶けて
一体化してしまうほど強く強く抱きしめ続けた。
なにも伝えずに終われない。心春とは終わらせたくない。
想いはある。こんなにも。
否定しない。したくない。
だけど、そればかりを掴んでいてはいけない。
お互いの体温と存在を確かめ合って、俺はそっと心春の体を離した。そして……。
「ありがとう心春。俺に出逢ってくれて、好きになってくれて」
苦しいことや悲しいことがあっても、俺は心春が笑っていられるように願う。ずっとそれだけを願い続ける。
「幸せになれ、心春」
それが心からの願い。
俺の瞳から一筋の涙が流れて、だけど冷たくはない。この朝日のようにとても暖かくて穏やかな涙だった。
俺の言葉を聞いた心春は自分で涙を拭いて、強い目でこっちを見た。
「私頑張る。縁がいなくてもちゃんと前を向いて生きていく。だから心配はいらないよ」
背筋を伸ばして、弱かった心春はもういない。
「ありがとう。縁。私も縁に出逢えて良かった。たくさんの幸せをありがとう」
――『ねえ、知ってる?この朝日を見たカップルは離ればなれにならずに、ずっと幸せでいられるんだって』
離ればなれにならないよ。
きみと繋がる絆は確かにここにある。
ずっと胸の中にあるから。
心春の瞳から俺が消えていく。
絵馬の効果がなくなったわけでもエニシとしての縁が切れたわけでもなく、お互いに同じ気持ちで笑えたから。
だからその瞳に映らなくても寂しくない。
パッと繋いだ手が離れると心春はもう一度焼き付けるように朝日を見た。キラリと右耳のピアスが光って、その口元がニコリと上がる。
ああ、その横顔。すごくすごく綺麗だ。