心ときみの物語
俺は高嶺神社を見渡した。たくさんの人が想いを抱えて縁を結びにくる場所。
そしてここは俺のもうひとつの家。
「お父さん見て!懐かしい写真を見つけたのよ」
と、その時。母ちゃんが自宅から走ってきて境内にいた親父に歩み寄る。
「部屋を掃除してたら棚と棚の間にあってね。ずっと探してたんだけど良かったわ、見つかって」
「ああ、縁が初めて歩いた時の写真か」
境内の中、初めての靴を履いて。一歩、二歩と懸命に歩く1歳になったばかりの俺。
予定よりも1か月も早く生まれて親父は立ち会えないし。へその緒が首に絡まって出てくるし、夜泣きはひどいしミルクは飲まないし。
その上、黄疸ができてすぐに入院。それはそれは母ちゃんいわく、大変な赤ちゃんだったらしい。
家宝である碧玉(へきぎょく)は壊すし、本殿の襖に穴を開けて、装飾品はべろべろと舐める。それでもすくすくと大きくなって、初めて外の地面に足を着けて歩いた時の写真。
――〝縁〟
人と人との繋がりを大切にする子になりますようにと、そんな想いをこめて両親が名付けた。
伝えたい気持ちはまだ胸に溢れる。後悔や未練などと重たい言葉を使うつもりはない。強いて言うなら春がきても片隅に残っている雪の塊みたいな、そんな感じ。
だけど……。
「あの子今頃なにをしてるのかしら」
「あいつのことだ。まだフラフラとしてるさ」
「ふふ、今日は写真が見つかったお祝いに縁の好きな食べ物でも作ろうかしら」
「ああ、それがいいな」
だけど、伝えなくても伝わっている想いもあるから。