心ときみの物語
「エニシさまはこれからどうするんです?」
拝殿へと続く12段の石段を上りながら小鞠が聞いてきた。
「うーん。どうしようかね」
待ち人はきた。心のシコリも取れた。こんな薄暗い場所にわざわざいてやる必要はない。
俺が曖昧な返事をすると小鞠はしょぼんと下を向いてしまった。それを見てわざと歩く足を速めた。
「まあ、お前が俺を繋ぎ止めようと裏絵馬の噂を流してるのは知ってたし?」
「ぎゃ、なぜそれを?」
「当たり前だ。俺は細く短くやって、心春が来たらさっさとお空で悠々自適に暮らす予定だったんだ」
だから息を潜めてこんな蜘蛛の巣だらけのところに住んでるっていうのに。
「てめえのせいで広まりすぎなんだよ。バカ」
そのせいでのんびり昼寝もできやしない。すると小鞠が口をへの字にしてポツリと呟いた。
「だって、依頼者が来なかったらエニシさまがいなくなっちゃう気がして」
俺はそれを見て面倒くさそうに顔を掻いた。そのまま拝殿の扉に手をかけて、くるりと振り向く。
「まあ、噂が消えてくれるまでは細々とやるよ」
「え!じゃあ、ずっと流しますね!」
「こら」