心ときみの物語
・・・・・「0話 縁ときみと人情と」
――これは俺と小鞠の出逢いの物語である。
***
それは俺が彼岸の人間になって縁切りという仕事を始めてすぐのことだった。
ざわざわと揺れる木々に囲まれた古びた拝殿。
そこに出入りするようになってからずっと視線を感じる。
どこにいても、なにをしてても監視されているようなまとわりつくその視線にはもううんざりだった。
「あのさ、そういうのって普通バレないようにするんじゃね?見られてるこっちが気を遣うほどの眼力を送ってくるんじゃねーよ」
「………」
周りにはだれもいない。というか姿を見せない。これじゃ独り言を言ってるただのおかしいヤツになってしまう。
「火で炙(あぶ)るぞ。犬」
「ひぃぃぃ。ごめんなさい……!」
ボワンとまるで土煙のように拝殿の前に立てられている狛犬の像が姿を変えた。
それは小柄でまだ幼さの残る少女の姿だった。
白装束のような真っ白な着物を着て、物陰から恐る恐るこっちを見つめている。
「い、いつから気づいていたんですか?どうして私の正体が分かったんですか……?」
興味津々なのか怖がっているのかはっきりしてほしい。質問してくるくせに相変わらず顔だけしか出さないし。
「いや、逆にバレてないと思ってたの?」
普通神社の狛犬は2体いて互いに見つめるように並んでいる。だけどこの場所には1体だけしかいないため石段を上がってくる参拝者を見守るように顔は真正面に向いていたはず。
それなのに俺がここに帰ってくるたびに狛犬の位置が右、次は左。最終的には石段に尻を向けてるもんだから気味が悪いというより笑えた。
「俺にバレるのを恐れていつも先回りして元の姿に戻ってたんだろうけど慌てすぎだろ」
「……うう……」