心ときみの物語
べつに狛犬が姿を変えたからといって驚かない。むしろ俺だって死んでるのにこうして存在してるわけだし。
「んで?俺になんか用?」
俺は拝殿の扉が前にあぐらをかいて、首をコキコキと回した。
「わ、私のことヘンに思わないんですか?他の人と同じように対等に見てくれるんですか……?」
なにを今さら。遊んでほしいだけならわざわざ俺も声をかけたりしなかった。ずっと俺を見ていた視線はそれにすがるしかないって必死なものだったから。
「同じだろ。お前を否定したら俺は自分のことも否定……」
言葉が言い終わる前にサッと素早い足音がして。まばたきをする暇もないぐらいのスピードで狛犬は俺に頭を下げていた。
「あなたがエニシさまだということは存じております。もしも人ではないこの狛犬の私の願いを聞いてくださるのなら……」
とても丁寧な口調で。そいつは地面に頭を擦りつけながら言った。
「どうか縁を切ってほしい人がいます。その方の名前は大塚進(おおつかすすむ)と言います。お願いしますエニシさま。どうかどうかその縁を……」
あまりに深く震えた声で頭を下げ続けるから、
面倒くさいなんて言葉でからかうこともできなかった。