心ときみの物語
「ゲホゲホッ。な、なんですかこれは」
そのあと狛犬を拝殿の中に入れてやると、すぐにその埃(ほこり)の多さに咳をしはじめた。
「なにってスイートルームに見えるのかよ」
床にはくっきりと足跡が浮かび上がるほど汚れているけど、慣れればどうってことはない。
「エニシさまはここに住んでるんですよね?」
「住んでるというか借りてるというか……」
「お掃除はしないんですか?」
「面倒くさいし」
「……ちょっと待っててください!」
狛犬はそう言って外に飛び出していった。暫くして帰ってくるとその手にはどこからか持ってきたバケツと雑巾。
腕捲りをして雑巾を水に濡らすと、そのまま床を走りはじめた。右から左へと順番に。そして天井の埃もはらって、俺がぼーっとしてる間に気づけば部屋がピカピカになっていた。
「やるじゃん」
「はい!お掃除だけは得意なので!」
一汗かいて狛犬は清々しい顔をしていた。まるで久しぶりに体を動かしたみたいにすごく楽しそうだった。
こんなに綺麗にされたんじゃ適当に話を聞くだけでは済まなくなってしまった。