心ときみの物語
「それで?お前と大塚進の関係は?」
電気が通ってない拝殿はとても不便で、俺はとりあえず狛犬の前にペットボトルのお茶を置いた。
「あの……」
「安心しろ新品だ」
「そうじゃなくてっ」
狛犬は険しい顔をして正座していた。モゴモゴと口が動いたあと決意を固めたようにその口を開く。
「か、仮に相手方と私の縁が切れていた場合でも、私の一方的な気持ちで切ることは可能なんでしょうか?」
ギュッとその手に力が入る。
縁結びの場合は両者の想いが重ならないと成就しない。しかし縁切りは例え相手が強く結びたがっていても自分が切りたいと思えば切れてしまう。
悪くいえば依頼者本人にとって、とても都合のいいものなのだ。
「可能だよ。お前の中だけで結ばれてる縁だとしてもちゃんと切れる」
そう言うと狛犬はホッとした表情をした。そして背筋を伸ばしたあと、再び俺に頭を下げた。
「申し遅れました。私は小鞠と申します。大塚進さんとは友人関係でした。今から80年前……」
「おいおいおい」
思わずコントのように突っこんでしまった。聞き間違いかと疑ってもう一度確認する。
「えっと、なに?何年前?」
「ですから80年前」
「………」
俺の耳は正常だったらしい。