心ときみの物語


「な……」

雪乃はビックリした顔をして目を丸くさせていた。


「目なんか瞑ってたら見えないだろ」

「み、見えないってなにが……」

「ん」と俺が大きな御神木の裏を指さすと、雪乃の思考が一瞬で止まった。そこから唇を噛みしめて現れたのは……。


「……佳苗」

息を吐くように雪乃が呟く。


橘佳苗は雪乃がここに来る10分前にきた。砂利道を踏みしめて雪乃と同じような顔をして。

もちろん俺が呼んだ。ただしボランティアではない。

状況を理解していない雪乃に俺はあるものを見せた。それは裏絵馬と呼ばれる黒い絵馬。

右手は雪乃が書いたもの。そして左手の絵馬は……。 


「橘佳苗も俺に依頼してきたんだよ。椎名雪乃との縁を切ってほしいって」


――あれは雪乃が来る2日前。

いつものようにゴロゴロとテレビを見ていたらガタンと物音がして。見に行ったら掛け所にちょうど絵馬を結んだところだった。

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